6月19日の桜桃忌に寄せて『カチカチ山』とか『斜陽』とか

6月19日は桜桃忌です。

桜桃忌とは?と思った方に説明すると
作家・太宰治の遺体が発見された日で、かつ太宰治の誕生日です。

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私がこれまでの人生で一番多く読んだ作家は、太宰治です。
一般的に世に出ている作品は、『右大臣実朝』以外は全部読んだと思います。
ほとんどは忘れちゃってますけどね;
『右大臣実朝』だけなぜ読んでいないかというと、何となくです。笑
何となく読まずに時が流れ、太宰自体読むことがあまりなくなりました。

明日は桜桃忌ということで、久しぶりに太宰治を思い出し、作品について少し書いてみたいと思います。

まず、太宰といえば一般的に思い出されるのは、『人間失格』とか、『走れメロス』でしょうか。

『走れメロス』はよくできた作品だと思いますが、個人的には、太宰が意識的に「良くできた作品」として書いたものではないかという気がしています。

『人間失格』は、ハマる人はどっぷりハマると思いますが、拒否反応が出る人もいると思うので、何となくお勧めはしづらいかな(;'∀')と思います。

昔読んだ、海外で読まれている日本の近代文学について書かれた書籍に、川端康成はオリエンタリズムが評価されているのに対し、太宰の作品は、日本での読まれ方と同じ反応だと書かれていたのを覚えています。

読者が「これは自分の物語だ。」と、思い込んでしまうのだそうです。

あの独特の一人称の語りは、太宰から自分個人に告白されているような妙な感覚になるんですよね。
そう思わせる仕掛けがあると思いますけどね。

若い人が初めて太宰を読むときに、私がおススメしたいのは、『お伽草紙』です。
防空壕の中で、父親が娘にお伽噺の絵本を読み聞かせながら、父親自身は別個の物語を作り出していきます。
「瘤取り」「浦島さん」「カチカチ山」「舌切雀」が、語り手である父親独自の視点で語られます。

中でも特に「カチカチ山」が面白いんです。
兎を16歳の美少女、狸を兎に恋する37歳の醜男に見立てて話が展開するのですが、その設定でカチカチ山を想像してみてください。それだけでなんだか切ない気がしませんか?

中年男の悲哀とかわいらしさ(なのか?)を、ぜひ読んで感じてみて欲しいです。
若い女の子は、残酷な兎に少し共感してしまう気持ちもあるかもしれません。
最後に狸が言い放つ「惚れたが悪いか」が何とも切なく、いいんですよね。笑


それからもう一つ紹介したいのが、『斜陽』。私が太宰にハマるきっかけになった作品です。
没落貴族の悲哀を描いた作品だと言われていますが、まあ確かにそうなんですけれども、あれは、かず子の成長物語だと思っています。

小説という形で人がどのように成長していくのかを、文字通り「言葉」を通して表現している作品だと思います。
人が言葉を体得していく過程を描いているといえばいいのかな。

物語の語り手・かず子は、物語の始まりの方ではほとんど「自分の言葉」というものを持っていません。
自分自身の言葉(考え)がないので、直治の言葉を引用したり、お母さまとの会話を書き連ねることで、物語を進めていきます。

こういう人って実際にいますよね?
自分に自信がない人に多いと思いますが、自分の意見としてではなく、誰それが言ってたとか、何かに書かれていたとか、そういうことばかり言う人。
かず子はそういうタイプの女子だったんですね。

そんなかず子ですが、だんだんと自分の考えを言葉にできるようになり、恋する人に「手紙」を書くことができるようになります。
ただしその手紙も通常の手紙とは異なり、会話文を含め他人の言葉が大いに引用されています。

しかし最後に上原に宛てた手紙は、自分の言葉で語られています。
それまでは「引用」という形で、誰かの言葉で表現されていたものが、引用した数々の言葉を取り込んだ「自分の言葉」として成立しているんですね。

最後の手紙、なんだか少しゾッとしますけどね。笑
初めて読んだときは、上原の最終的な位置付けに、かず子がオチまで付けた!と、びっくりしてしまいましたけれども。

人が言葉を習得する過程は、最初は人を模倣することから始まると思います。
そして様々な人の言葉を模倣しながら、「自分の言葉」あるいは、「自分の考え」が出来上がっていくんだと思います。

そしてこれは言葉だけに言えることではありませんよね。
仕事でも何でも、まずは誰かの真似をして、そしてたくさん真似をした結果、自分なりのやり方を見つけるのだと思います。

「言葉」を通して表現される成長物語として読むと、『斜陽』はさらに面白くなると思います。
あ、この言葉自分のものにしたな!とか。笑

そして「道徳革命」を宣言するかず子は、パンキッシュでもあるんですよね~。

私の中で、かず子のテーマソングは、ザ・ハイロウズの「彼女はパンク」なんです。
かず子はパンク!そう思って読んでもまた、面白いと思います。

たーいーくーつーに~、あーきちゃーった~♪
『斜陽』を読むときは、ぜひ、ハイロウズの「彼女はパンク」も合わせてお楽しみいただきたいです。


近代文学に拒否感がある方もいると思いますが、太宰治はなかなか面白いので、ぜひこの機会に一冊手に取ってみてはいかがでしょうか。
読み方、楽しみ方は、自由で多様です。

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